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「緑の行進」記念行事におけるヨセフ・イギデルのインタビュー

Tuesday, November 25, 2025

パンオリエント・ニュース
【東京】「緑の行進」50周年を記念して11月に東京で行われたパンオリエント・ニュースの取材に対し、ヨセフ・イギデル氏は「緑の行進はモロッコの現代史の中で最も素晴らしい統一された時間だった。これはサハラ地域とモロッコを結びつかせ、モロッコ国内の団結を復活させるとともにサハラ地域の繁栄を促すものだった」と述べた。

イギデル氏は1989年から日本に滞在し研究・仕事を続けている。30年にわたる日本・シリコンバレー・グローバルテクノロジーエコシステムの協調の架け橋となり、イノベーションに牽引された日米協力のリーダーとして広く知られる人物である。現在は主にSRIインターナショナル(旧スタンフォード研究所)の日本代表及び事業開発バイスプレジデントを務める。
イギデル氏は日・モロッコ関係、日米関係を強固にするいくつかのイニシアチブを開設し、リードしてきている。国際協力とイノベーションの育成に貢献したとして、
2005年には東京で、モロッコ国王ムハンマド6世から王室勲章を私的に授与されている。
パンオリエント・ニュースのインタビューは「緑の行進」に関して彼の記憶を辿るところから始まった。

「緑の行進をどのように記憶していますか?」
―2025年の今年、モロッコは緑の行進の50周年を祝いました。私にとって緑の行進は中学時代に心に刻まれた私の極めて私的な記憶でもあります。モロッコ人にとって緑の行進はいつの時代も国の結束と平和的な覚悟を象徴するものなのです。
1956年にモロッコ主要地域の独立を取り戻した後、我が国はゆっくりと平和的に領土の回復を成し遂げていきました。1958年にはタルファヤを、1969年にはシディ・イフニを、そして1975年にはサギア・エル・ハムラとウエド・エド・ダハブをついに取り戻しました。1975年10月16日、国際司法裁判所は、サハラとモロッコ王国の法的な、そして歴史的なつながりを認め、これらが無人地帯だといういかなる概念も退けました。
これを受けて、国王ハッサン2世はモロッコ国民に対し、南部地域を取り戻すための平和行進に参加するよう呼びかけました。私はこの時代の雰囲気をよく覚えています。すべての国民がプライドを感じ、この行進に参加する35万人に加わろうと何千人もの市民たちが自主的に動いたのです。
1975年11月6日に緑の行進は行われました。数週間のうちにスペインはマドリッド合意に署名し、サハラの行政権の移譲に同意したのです。こうして緑の行進は、一発も銃が発射されることなく平和的な手段で領土を取り戻した世界史の中でも大変ユニークな出来事となりました。

「モロッコの方々は緑の行進を現在どのように感じていますか?また独立後のモロッコにとってサハラをその母国モロッコに再帰属させるために緑の行進はどのように必要だったのでしょうか?」


Youssef Iguider


―今日からの視点で見ると、1975年に行われた緑の行進は、モロッコの現代史の中でも最も素晴らしく統一的な出来事だと思います。故国王ハッサン2世のビジョンと知恵から生まれた実に素晴らしいアイデアでした。

モロッコのサハラの未来が不明瞭な時代に、故国王ハッサン2世は危険な地政学的な危機になり得る事態を、平和的な結束と信頼へと変える道を見出したのです。戦争や対立へと進む代わりに平和な行進へとモロッコ国民を動かすことを選んだのです。
モロッコの歴史とアイデンティティにいつも組み込まれていたその地を象徴的にそして精神的にも取り戻したのです。

緑の行進は、政治的な目的を達成する以上のものをもたらしました。南部のモロッコ人が中央・北モロッコの同胞たちと再会し、確固とした連帯のセンスを取り戻し、国王を中心としたモロッコ国民の団結、王室と国民の聖なる結びつきの強化にもつながりました。

50年後の今日、緑の行進はモロッコ人1人1人の胸に今だに生き続けています。緑の行進の記憶は、本当の強さは対立の中にあるのではなく、結束、ビジョン、そして平和の中にあるのだということを思い出させてくれるのです。これらの価値観は、国王ムハンマド6世率いるモロッコの歩みを今も牽引してくれています。

「記念日に何か行事はあるのでしょうか?」

―毎年11月6日には、国内外のモロッコ人たちが甚大なるプライドと愛国心、独立心と覚悟を持ってこの日を祝うため、国全体の結束が強まります。
日本におけるモロッコ人コミュニティの一員として、私もまた家族とともに、そして他のすべてのモロッコ人たちと共にこの日を祝し、感慨深さと喜びに包まれます。しかし今年はいつにも増して本当に特別なのです、ユニークな歴史的意味があるからです。
まず2025年は緑の行進から50年という節目になります。我が国の歴史を変えた平和的で先見性のあるアクションから50年です。2つ目には、更に意義あることに、10月31日はマグリブ地域の地政学的な負担を長らく抱えてきたサハラ問題の永続的な解決策を模索する上で、モロッコの自治計画を主要な基準点として認める決議が国連安全保障理事会に採択された日です。モロッコ全土の都市で、歓喜に沸く群衆がこの瞬間を祝うために街頭に繰り出して踊り、国旗を振って愛国の歌や国歌を歌いました。南部では花火を打ち上げて伝統音楽で歌ったり踊ったりしました。

国王ムハンマド6世はテレビでの演説で国連での決議を「歴史的な転換点」として歓迎しましたが、国王の言葉は深く共鳴し、我々国民の尊厳と、モロッコの大義名分への信頼を強化しました。
遠く離れたこの日本においても私たちはモロッコの心臓の鼓動を、そして結束、平和、変わることのない祖国への愛を感じることができました。

「サハラの現在の状況、そしてスペインからの独立後モロッコの一部となったサハラの人口について教えてください。」

―実をいうとモロッコは国連安全保障理事会の決議採択のかなり以前から、自治計画を現地で実施し、地元住民と地域に具体的な利益をもたらすことを確保する方策を取ってきました。
この枠組みの下、モロッコのサハラウィ市民は立法・行政・司法の各機関を通じて自分たちのことは民主的に管理しているのです。これはモロッコが、主権の範囲内での真の自治にコミットしている証左です。
2000年代初期から南部地域は、国の年平均値をはるかに上回る強固で持続的な経済成長を遂げています。国王ムハンマド6世のリーダーシップの下でモロッコは現地での外交と開発の努力を強化してきました。今日、南部地域は現代的な道路、産業・物流ゾーン、再生可能エネルギープロジェクト、大学、病院、社会インフラ、戦略的なダクラ大西洋港といった過去に例を見ない変革を目の当たりにしています。2015年の南部諸州開発モデルによって進められたこのダイナミックな進展は、モロッコのサハラを投資・安定・繁栄の地域ハブと変容させました。これは行動による主権の真の実現です。

「国家の安全保障の観点から、モロッコとサハラ地域が直面している主な課題は何でしょうか?」

―モロッコの国家安全保障は南部諸州の重要性とより広いサヘル地域の複雑性から形作られています。国王ムハンマド6世のリーダーシップの下で安定と経済成長を維持してきたモロッコは、同時に慎重さと積極的な戦略を必要とする課題を長く持ち続けています。
安全保障上の懸念点の一つは、サヘル地域の不安定性にあります。テロリスト集団や武器密輸集団、犯罪ネットワークが国境付近で暗躍しているからです。モロッコはこれらから直接的な脅威にさらされていますが、この不安定な地域からの流出のリスクには、継続的な警戒と強力な国境管理が必要です。加えて、国境管理と密輸は、広大な砂漠地帯全体で運用上の課題を引き起こします。不法移民、違法取引、潜在的な侵入を制御するには、軍、治安部隊、諜報部隊間の連携、継続的な調整が必要です。
新たな脅威にはサイバー攻撃や、特にモロッコの領土保全の主張を弱めることを目的とした偽情報戦争も含まれます。
これらのリスクに対処するために、モロッコは安全保障、開発、外交を組み合わせた
包括的かつ将来を見据えたアプローチを採用しています。


A city in Morocco’s Sahara

「モロッコの経済、観光、産業、そして農業・漁業の発展にサハラ地域はどのような貢献をしているのでしょうか?」

―個人的には、南部地域がモロッコの経済発展に強力なエンジンとなったことについてとても誇りに思っています。「緑の行進」の44周年記念であった2019年に行われた演説の中で国王ムハンマド6世は、「モロッコの南部諸州は、地政学的に、経済的に、また人的交流においてもモロッコとアフリカの現実的な結びつきを形成している」と述べ、モロッコをアフリカの未来におけるキープレイヤーにする彼のビジョンを改めて確認しました。
今日このビジョンは形となって表れています。モロッコは特にダクラやラユーンといった南部の地域を積極的に成長の中心へと変革させていますし、これが他のアフリカ諸国へと続く道になっています。この変革の最も象徴的なプロジェクトはダクラ大西洋港プロジェクトで、これはモロッコの、サハラを経済と産業と海洋のハブにするという戦略の礎石となりました。
この最先端の港には、地域の豊富な海洋資源を後押しする産業物流ゾーン、商業交流エリア、漁業専用ゾーンが含まれます。これらがインフラ開発、観光促進、再生エネルギープロジェクト、農業投資等と合わさり、このイニシアチブは南部諸州をモロッコ、アフリカ、そして世界へと続く戦略的な架け橋へと変容させています。
今日のサハラはモロッコの結束の象徴というだけではなく、イノベーション、貿易、アフリカ大陸におけるサステナブルな成長の原動力となっているのです。

「緑の行進は今日のあなたにとってどんな意味を持つのでしょうか?」

―日本に長年暮らしているモロッコ人として、私は心の奥深くにいつも「緑の行進」とそれが持つ意味というものを抱いてきました。モロッコの最大の強さはその団結、信念にあり、たゆみない平和と進歩にあるのだということをいつも思い出させてくれます。50年経った今でも、そして世界のどこにいても、1975年に私たちの父母を導いた同じ精神が、働き、革新し、誇りを持って愛する国を代表するよう今日も私たちを鼓舞し続けています。緑の行進は歴史の1ページというだけではなく、モロッコの歩みを未来の安定、繁栄、アフリカそして世界におけるリーダーへと導いてくれる生きた遺産なのです。



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